認知症いろいろ たしかめてください、患者さんの「認知機能」

Dementia Support 2011 Summer

私の描くDementia Support

パーソンセンタードケアで穏やかな生活を提供する病院

パーソンセンタードケアを実践

 佐々木氏が新たに目指したのは、普通の人と何ら変わらない「人間としての共通点に視点を移したケア」「病人中心のケアから人間中心のケア」だった。それは、従来の医療モデルでは到底なしえないことであった。

 「それまではどうしても医師を頂点するヒエラルキーがありました。それをまずなくすことから始めました。とても大変でしたが、5年ぐらいかかってようやく医療職、介護職はそれぞれ専門職として対等であり、協働してケアにあたるという意識がスタッフたちの間に浸透していきました」

 同時に、佐々木氏が取り組んだのが環境の整備だった。それまで殺風景だった病棟を改造し、小規模に分けてユニット化し、それぞれに台所と食堂兼居間を設け、生活感ある環境をつくり出した。併せて、患者とのなじみの関係を築けるように、各ユニットに専属のケアスタッフを配置した。

 また、ケアの質を向上させるため、96年から毎年スウェーデンのスタッフを招いて同院で仕事をしてもらい、さまざまなアドバイスを得るようにした。さらに、人間中心のケアを進めていくなかでピック病(前頭側頭葉変性症の一つ)患者専用のグループホーム「ラーゴム」を日本で最初に誕生させた。

 「10年ほど前までは、ピック病は原因も治療法もわからない特異的な病気と考えられていました。私の病院は比較的多くのピック病の患者さんたちを引き受けていました。しかし、彼らに向精神薬など医学的アプローチをしても一向に改善がみられませんでした。それどころか、中には症状が悪化する人もいました。何かよい手立てはないかと思案していたとき、ふとあることに気付いたのです。ピック病の人たちはどういうわけか自然に集まってきて、しかも決して居心地が悪そうではないのです。それでピック病の人たちだけのグループホームをつくってみたらどうだろうかと思いついたのです。実験的な試みだったのですが、皆さん落ち着いて過せるようになり、薬も2、3カ月でかなり減らせました。グループホーム『ラーゴム』は最初からけっこううまくいった、うちでは珍しいケースです」

 次々に新しい取り組みに果敢に挑戦していた佐々木氏はある時、「パーソンセンタードケア」という考え方を知る。

 「日本認知症ケア学会の設立総会の基調講演で長谷川和夫先生が“パーソンフッド”、人間らしさという言葉を紹介されました。初めて聞く言葉に興味をもった私は長谷川先生に、『それはどういうことでしょうか』とお尋ねしたところ、『これを読んでご覧なさい』とくださったのが、英国の臨床心理学者トム・キッドウッドが著した『Dementia Reconsidered』でした。とても難解な本でしたが、読み進むうちに彼が提唱する“パーソンセンタードケア”はまさに私たちが目指しているケアと同じであることがわかり、自分たちの方向性は間違っていないという意を強くもちました」

静かで落ち着いた室内。見学者から「重度の人はどこにいるのですか?」と聞かれることがある。佐々木氏が最初にスウェーデンを訪問したときのようだ

 “パーソンフッド”は人との関係性の中で出来上がる。そのパーソンフッドを維持するには、その人といかにコミュニケーションをうまく図られるかが鍵となる。そこで佐々木氏はコミュニケーション方法の中にバリデーション療法を取り入れた。

 バリデーション療法は、米国のソーシャルワーカー、ナオミ・フェイネル氏が開発したもの。バリデーションとは“認める”という意味で、騒いだり徘徊したりするには、その人なりの理由があると捉え、共感して接することを基本としている。

 「この手法で認知症の人とコミュニケーションをとると、BPSDが早期に治まります。このことからも認知症治療においては、コミュニケーションなど狭義の医療以外の部分で助けられている割合が非常に大きいことがわかります」と佐々木氏は話す。

 同院の新人教育もユニークだ。一人の認知症の人に接してもらい、それをビデオに撮り、皆でディスカッションを行う。そうすることでコミュニケーション能力を身に付け、深めていく。

 「一人の人を知ることで、テクニックだけではなく、介護という仕事の楽しさ、やりがいを見い出します。私どもの施設はスタッフの離職率が極めて低いのですよ」

 初めてスウェーデンを訪ねたとき、佐々木氏はスタッフが自信と誇りをもって仕事をしていることも、強く印象に残った。それと変わらない表情を同院のスタッフたちもしていることが、何より嬉しいと顔をほころばせる。

病棟の一角には懐かしいタンスやこたつなどが置かれている。すべてスタッフが自分たちで集めてきたもの

「いいケアは強い力になる、これは私の27年間の実感です」と佐々木氏はしみじみと話す

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