認知症いろいろ たしかめてください、患者さんの「認知機能」

Dementia Support 2011 Summer

認知症の人を支援するケアマネジメント

高齢者の暮らしを地域の社会資源を活用し支える

考察

 現在、Aさんの救急要請がまったくなくなったわけではない。しかし、本人を支援するためのさまざまな地域の社会資源が一堂に会し、一人の認知症高齢者のBPSDの背景にある思いを理解しようとし、それぞれができる支援を模索する中で、Aさんとの「関係」も少しずつ変わりつつある。

 自治会長は近隣の住民に対して、Aさんの状態を説明して「我慢したってや」という表現ではあるが、説得しようとしてくれるようになった。主治医・訪問看護ステーションとは、今まで以上に信頼が深まり、医療面だけでなく、Aさんの生活面についての相談もできるようになり、連携が強まった。また消防署も細かく配慮してくれている。

 人は、「自分のことを考えてくれる人たちが傍にいる。けっして一人ぼっちじゃない」と感じられたとき、自分らしく生きていけるのではないかと思う。この事例を通して、「年をとっても認知症になっても、住み慣れた地域で自分らしく暮らしたい」という思いを支えるためには、医療・福祉・介護の連携が不可欠で、その連携の中に近隣住民も含めることで、認知症高齢者への理解も深まるのではないかと考えた。

事例解説

(桜美林大学大学院教授 白澤 政和

 一人暮らしの認知症高齢者であるAさんは、BPSDによる苦情などで介護サービス事業者との関係が悪化し、なじみの環境で継続した支援ができるのではないかということで、小規模多機能型居宅介護サービスを利用した。

 本人は、「体がしんどい、寂しい」という理由で、頻繁に事業所や消防署、警察に電話をかけ、そのため地域住民から苦情が出て、地域住民との関係も悪化するといった状況にある。こうした事例に対する支援のあり方について考えてみたい。

1BPSDが生じる背景への対応

 本事例では、本人がさまざまな人たちに頻繁に電話をかけている。こうした行為の背景には、ケアマネジャーも分析しているように、毎日不安でしかたがなく、特に夜になると寂しくなって不安が募るといったことがあり、それがこうした行動に駆り立てている。そのため、Aさんの支援に関わる人たちは、できるかぎり時間をとり、Aさんの話を聴くといったかたちで不安や寂しさの解消に努めている。

 ただ、こうした関わりをしても、それ以上に本人の不安や寂しさが大きいため、必ずしも十分な対応ができているわけではない。Aさんの思いを汲み、不安や寂しさに応えようとするかたちで対応していることについては評価できるが、BPSDの大きさから、現在のような生活をそのまま続けていくのには、限界が近いといえる。

 そのためには、Aさんが小規模多機能型サービスに徐々に慣れていったように、小規模多機能の中の泊まり部分を強化し、特に頻繁に生じる夜の寂しさへも身近に関われるような対応をしようとしている。そうした泊りの中で、スタッフとの関係をもつことで、夜間の安心感をつくりあげていくことが重要であろう。

2地域住民からの支援の活用

 電話を何回もかけ、救急車が頻繁にやってくるということで、地域住民からの苦情が出ている。その対応のため、ケアマネジャーは2回にわたって地域ケア会議を開いている。保健福祉センター、消防署、訪問看護ステーション、住宅供給公社、自治会長などに集まってもらい、その中で状況の説明をし、協力を求めている。

 BPSDをもったAさんへの対応には、専門職のみでは十分でなく、多くのインフォーマルな社会資源をも活用して、本人の気持ちを理解してそれに応えていくことが大切である。ケアマネジャーが、率先してそういう支援の仕組みをつくったことについて評価できる。

 その結果、自治会長のAさんに対する態度も変化をし、在宅生活を支えるひとつの基盤ができつつある。インフォーマルな資源は、専門家の資源に比べて時間や対象を切り取ることなく、日常生活全体にわたって継続的に支援できる点が特徴である。そういう資源を活用していくためには、こうしたカンファレンスをもち、ケアマネジャーが、弁護的・共感的な立場から、本人の思いを伝えていくことが重要である。

3本人のストレングスを活用した支援

 ともすれば、AさんのBPSDにばかりに目を向けがちになる。Aさんは体調のよい日には外出しておしゃべりしたり、きれいな景色をみることが好きである。また、元来おしゃれな人で、白髪染めに誘うと喜んで応じ、入浴もしてくれる。

 このようにAさんのストレングスの観点から支援をしていることが重要である。そうした支援をすることによって、不安感が弱まり、BPSDの発現が少なくなることも考えられる。

 今後は、Aさんの好きなことやできることといったストレングスに一層目を向け、泊りの部分を強化していくことを考えたい。泊まれば、夜にこういう楽しみがある、こういう好物が食べられる。そういうことで泊りを増やし、少しでも夜の寂しさが解消されればBPSDによる行為も減少していくであろう。

医療者からのコメント
介護職からの情報提供を医療支援に活かす

 Aさんはアルツハイマー型認知症と診断されたことから、かかりつけ医にアリセプトが処方されたが、内服を拒否した。また、BPSDへの対応として、漢方薬を処方してもらったが、それも定期的に内服を継続するのは困難であった。

 精神科の医師に相談をしたうえで抗精神病薬を検討したが、逆に興奮し、警察に「クーラーのリモコンを盗られたなどと夜中に何度も電話をかけた。薬物療法によりBPSDを軽減することは非常に困難だった。

 Aさんが唯一好んで内服したのは、市販薬の止瀉薬(下痢止め)であった。ただ、小規模多機能の職員からは「Aさんが腹痛を訴えると止瀉薬を自分で内服し、そのときによく119番に電話をしている」との状況報告があった。その後、定期検査を受診し、貧血が進んでおり、便の検査結果から大腸がんであることがわかった。

 BPSDの対処に関しては、当初は抗精神病薬を使用するのはやむを得なかった。ケア提供スタッフと会議をもち、「不安になるとBPSD症状が出現する」ことがわかった。次に「なぜ、不安になるとBPSDが出現するのか」、原因を探索していった。

 Aさんに、もし疼痛によってBPSDが表出されているのであれば、疼痛コントロールをしてみることで、BPSDは軽減されるのではないか、ということが話し合われた。一日の流れを把握している小規模多機能のスタッフから情報提供があり、医師との相談で、訪問看護師が麻薬の貼用薬を3日に1回背中に貼用するという疼痛の緩和を開始した。その後、Aさんの救急車を呼ぶ回数は激減し、興奮した状況は少なくなった。

 担当医は、「医療者は患者をまず医学的な側面から診ていて、日常生活の細かな変化にはなかなか気付かない。今回は、一日を通してAさんの生活を支援している小規模多機能のワーカーからの情報提供で、治療のヒントを得られた」と述べている。

 最初は、抗精神病薬の投与を第一の選択としてAさんに関わったが、その後、症状の改善のために別のアプローチを試みることができたのも、介護・福祉・医療の専門職による協働があったからこそだと思う。

訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ管理者
訪問看護認定看護師
大橋 奈美

※本文中の事例は、本人のプライバシー保護を考慮し、内容を変更しています。

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