認知症いろいろ たしかめてください、患者さんの「認知機能」

Dementia Support 2012 Winter

認知症ケアへの新しい風(連載27)

新しい絆を尊重するケアへ

認知症介護研究・研修東京センター 名誉センター長 聖マリアンナ医科大学 特別顧問 長谷川 和夫

 私たちが蓄積された知識や体験を記憶力によって検索し、言葉のやりとりや注意力、計算力などを駆使して状況を理解し適切な判断をしていく働きを認知機能といっています。これを担当しているのが脳神経細胞のネットワークで、精巧なコンピューターです。このネットワークが疾病や傷害によって破壊され認知機能が低下し、今までの生活が困難になった状態が認知症です。

 ネットワークが欠落した場合に残ったネットワークで新しい絆を創りなおしていくことになります。これを支援するのが認知症ケアです。そして、トム・キットウッド(Tom Kitwood/1937〜98年)の提唱したパーソンセンタードケア(1997年)です。認知症のご本人の視点に立ったケア、ご本人が何を求めているかを把握すること、内的体験を理解しようとするケアです。介護者の視点や事業所の都合で行うケアではありません。ご本人に寄り添うケアです。その人の神経細胞ネットワークに合わせることから始めるケアです。私たちの従来からもっている共通のネットワークに合わせてくださいと押し付けるのではありません。

 82歳女性、若いころから町内会の役員をこなし、また日本舞踊教室で助手として働きました。8年前にアルツハイマー型認知症になり、アリセプトの服用を始めました。認知障害は次第に進んで最近の5年間は高度です。ことに記憶力の低下が著しく、15年前に夫と死別したことも忘れ、若いころのこと、舞踊をしていたことも忘れ、子どもの顔も認識できなくなりました。同居する長男は、彼女のことを“チッちゃん”と呼び、一切の暮らしを支えています。

 診療所に連れてくるのは別世帯をもつ長女です。ご本人は“親切な人”と言っていますが、新しい絆を創っているのか安定しています。簡単な挨拶や対話は普通ですが、長谷川式認知症スケールの得点は2/30でした。診察室の観葉植物パキラを見て、「綺麗な葉っぱですね」と自発的に話されて微笑んでいます。損傷されたネットワークのために過去の生活体験は失われましたが、残存するネットワークで現実の暮らしの中から新しい絆が創られているのでしょう。想起する力を失ったために自分だけの生活史を想い出せないだけで、ご本人の存在、そこにいること自体が記憶なのです。

 その時、私はご本人の人としての尊厳性にうたれました。ご本人のネットワークで創られた新しい絆を尊重することが、ご本人自身の全体を受け入れることであり、パーソンセンタードケアであることを改めて学びました。

長谷川和夫
1969年 東京慈恵会医科大学教授、73年 聖マリアンナ医科大学神経精神科教授、93年 同大学長、2002年 同大学理事長、05年 同大学名誉教授、現在、同大学特別顧問。01年 認知症介護研究・研修東京センター長を経て、現在、同名誉センター長。医学博士。『認知症を正しく理解するために』(マイライフ社)『認知症知りたいことガイドブック』(中央法規出版)など著書・論文多数。

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