認知症いろいろ たしかめてください、患者さんの「認知機能」

認知症特集

認知症のパラダイムシフト 認知症の人の生活を知る

認知症の人の生活機能障害

家事等の動作におけるつまずき

(1)家事等の動作が難しくなったときにどう考えるか

 家事の多くは、手順にそって複数の物品を操作する動作が含まれる。これを維持するには、慣れた自然な状況で、自分の意思で続けることが大切なことは言うまでもない。意欲低下があってしなくなったり、時間がかかるといって手出しをしすぎたりすればできなくなる。認知症自体によって意欲や気力が低下する場合があり、「歳のせい」にせず、症状の早期発見と薬物治療の対応が必要である。一方、しなくなるきっかけとなるのは、家事等における手順のある動作の「つまずき」であることが少なくない。
 動作/行為の障害はしばしば「失行」として捉えられることが多い。失行は、今日では、limb apraxiaとして、主に「上肢を用いて、一つの姿勢を生成する、あるいは、健常人ならば数秒で完結する特徴的動作パターン(その繰り返しを含む)を実行する行為」の障害を指すことが多い2)。失行と呼ぶのは、道具を使う場合でも、せいぜい単一の道具とその対象物を用いる動作までである。認知症を生じる疾患の中では、大脳皮質基底核変性症でこのような失行が比較的早期からみられる。しかし、アルツハイマー病の認知症では、中等度の段階でもむしろ失行は少ない。

(2)日常的多段階行為の障害

 認知症では、失行はなくても、家事のような手順のある複数物品を用いた動作に困難が生じる。このような動作は、かつてはLiepmannの観念失行で問題にされたが、今日では、naturalistic actionsとして、その障害要因が多角的に検討されるようになった。ここでは、意訳して「日常的多段階行為」と呼ぶことにする。日常的多段階行為は簡単な調理のような内容までを含む。一般的には、各段階の実行した結果が残りやすく、記憶に対する負荷は比較的少ない。
 日常的多段階行為は、外傷性脳損傷、右半球損傷、認知症3)等の幅広い状態で障害が認められる。日常的多段階行為では、複数の物品と複数の段階に対応する注意資源の容量低下、遂行場面の環境的要因、行為・行動面での環境依存性の要因も作用して遂行が障害されると考えられる。日常的多段階行為の遂行に影響を与える要因と相互作用について図2に模式図化した。日頃行っているこのような行為も、
・自分の意思として開始したか
・妨害刺激が少なく自然な環境か
・行為の手順を想起できるか
・物品と関連して思い浮かぶ複数の動作から適切なものを選べるか
・妨害に耐え、手順からそれないために十分な注意の容量が保たれているか
・道具を用いる個々の行為に失行がないか
等の様々な要因によって「つまずき」が生じ得る。

図2 日常的多段階行為の遂行に影響を与える要因と相互作用

自立度の高い「生活」を続けてもらうために

 何らかのつまずきによって日常的多段階行為に手間取るようになったとき、時間がかかるからといって、してあげてしまうのは最も良くない。「認知症で失行が起きている」といったラベルを貼って片づける風潮も打破したい。つまずきの要因を明らかにして、環境整備、最小限の助言・手出しで続けられるようにする支援を行いたい。しかし、現状ではその要因を分析する評価法が整っていない。日常的多段階行為の障害の評価法であるMulti-level action test(MLAT3))に準じて、わが国の生活様式に見合った課題を作成し、さらに、誤反応分析も行う必要がある。また、認知症患者の認知機能について、記憶や見当識以外の側面を広く定量的に測定でき、かつ、負担の少ない検査も求められる。認知症新時代に向けて、既成の評価法も見直して、生活機能の向上と維持を目指したい。

文献
  1. 1)障害者福祉研究会編:ICF国際生活機能分類―国際障害分類改訂版―、中央法規出版、東京、2002年
  2. 2)石合純夫:高次脳機能障害学第2版、医歯薬出版、東京、2012年
  3. 3)Schwartz, M. F., et al. : Naturalistic action production following right hemisphere stroke. Neuropsychologia, 37, 51-66 (1999)

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