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帰宅願望ともの盗られ妄想

もの盗られ妄想

 アルツハイマー病でみられる妄想の中で最も多いのが、もの盗られ妄想である(図1)。盗られるものは、お金、財布、通帳、印鑑など財産に関係するものが多い。また、一番本人にかかわっている人が患者から非難され、介護負担は増大する。もの盗られ妄想は、身の回りADLの低下があまり目立たない比較的初期に現れることが多い。また、欧米と異なり女性に多くみられることがわが国の特徴である。しまっておいたものを見つけられないことが根本的な原因であるため、近時記憶障害の関与は大きい。しかし、ひとりで終日財布を捜しているアルツハイマー病の人もおり、それだけでは説明できない。

図1 妄想を呈したアルツハイマー病53例でみられる妄想内容

アルツハイマー病で妄想がみられた53例のNPI(Neuropsychiatric Inventory)
「妄想」の下位質問による

(文献1より)

【症例】70歳代、女性
 夫と死別して、長男夫婦と同居。2年ほど前から物忘れが出現した。症状は次第に進行し、買い物に行っては冷蔵庫にたくさんある豆腐を買ってきたり、曜日を間違えてゴミ出しをするようになった。嫁がその都度注意していたところ、3カ月ほど前から「あんたが私の財布を盗った」ともの盗られ妄想がみられるようになったため受診してきた。最近、置き忘れがあって、よくものを捜すことが多くなったことは認めるが、「歳のせい」と言い、病識は低下している。「最近、財布が見つからないと私のせいにする」「一緒に捜すと布団の間から出てきたりする」と言う嫁の言葉を聞きながら、本人は「あんたが隠しといて」と小声でつぶやく。もの盗られ妄想は介護を一番一所懸命にしている介護者に向けられることを説明し、本人が失敗したときにきつく注意しないように指導するとともに、嫁の疲弊が強かったためアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とごく少量の非定型抗精神病薬を開始した。2カ月ほど経過した時点で、嫁によると「盗られた」とは言わなくなったとのことであったが、嫁が席をはずしている間に、「最近財布は大丈夫ですか?」と尋ねると、「やっぱりなくなる。言っても『私じゃない』の一点張りなので最近は言わない」とのことであった。
 このように、もの盗られ妄想は「妄想」という言葉が使われているが、統合失調症の妄想とは異なり、抗精神病薬を用いても症状はなかなか消退しない。アルツハイマー病では、情動を揺さぶられる出来事は、普通の出来事に比べて記憶に残りやすいことが知られている。このことを考えると、患者本人を注意、叱責することで、「この人(嫁)に気分を害することを言われた」「自分に不都合なことが起きたが、きっとその人の仕業に違いない!」という断片化した嫌な記憶だけが残り、もの盗られ妄想が育っていくのではないかと考えられる(図2)。もの盗られ妄想が現れる前に、介護者には「妄想の対象にされるのは、本人に一番精力的にかかわっている証しであること」をあらかじめ伝え、余裕を持って対応していただき、失敗などみられても本人をできるだけ叱らない努力をすることが重要であると伝えている。

図2 もの盗られ妄想が形成される背景

おわりに

 アルツハイマー病でみられるBPSDの中から、帰宅願望ともの盗られ妄想について簡単に述べた。BPSDがみられる背景には了解可能なものも少なくない。まずは、介護者本位の介入や解釈を行うのではなく、症状の理解に努め、非薬物的な対応から開始することが重要であることは言うまでもない。

文献
  1. 1)Ikeda, M., et al. : Delusions of Japanese patients with Alzheimer's disease. Int. J. Geriatr. Psychiatry, 18, 527-532 (2003)
  2. 2)小澤 勲:痴呆老人にみられるもの盗られ妄想について(1)性別、疾病診断別随伴率と痴呆の時期による病態の違い、精神経雑、99、370〜388(1997)
  3. 3)Kazui, H., et al. : Impact of emotion memory. Controlled study of the influence of emotionally charged material on declarative memory in Alzheimer's disease. Br. J. Psychiatry, 177, 343-347 (2000)

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