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認知症特集

認知症のパラダイムシフト 認知症の人の生活を知る

幻覚・妄想・誤認

滋賀県立成人病センター 老年内科副部長 長濱康弘

幻覚・妄想・誤認の定義・種類

 幻覚(hallucination)は知覚の障害として位置づけられ、「感覚器への対応する外的刺激なしに生じる知覚」と定義される。錯覚(illusion)あるいは誤認(misidentification)は「実在の外的刺激に対する誤った知覚あるいは認知」と定義され、知覚対象の有無により幻覚とは区別される。妄想(delusion)は「合理的な根拠を持たずに確信された病的な判断・観念で、理性や反証によっても訂正しえない状態」とされる。
 老年期認知症の約30〜40%で何らかの幻覚や妄想がみられる1)。感覚領域の幻覚には幻視、幻聴、幻触、幻味、幻嗅、体感幻覚(セネストパチー)がある。統合失調症では幻聴が多いのに対して、認知症では幻視の頻度が高い。一般に幻聴は少なく、あっても内容は要素的で単純なものが多い。
 認知症でみられる妄想は関係妄想群(被害、盗害、迫害、関係、注察、嫉妬、追跡、被毒など)や心気・疾病妄想が多く1)、統合失調症でみられる妄想知覚や妄想着想のような真性妄想はほとんどみられない。
 誤認も認知症ではよくみられ、単純な人物や場所の誤認、物体誤認(錯視)と、カプグラ症状、フレゴリ症状、相互変身症候群、重複記憶錯誤、幻の同居人、いない家族が家に居る、TV誤認、鏡誤認など、妄想的色彩を伴う誤認がある2)。訴えが執拗で修正不能なためにいわゆる「妄想性誤認」とすべきケースもあるが、誤認は時によって相手を誤認したりしなかったりと訴えが不安定なことが多く、認知症症候学においては妄想とは区別するのが適当と考えられる。

主要な認知症疾患における幻覚・妄想・誤認

【アルツハイマー病】
 アルツハイマー病(AD)では初期には幻覚の頻度は低く(3.3〜9.1%)、妄想の頻度が高い(24〜41%3)〜6))。しかし中期以降になるとADでも幻覚の頻度が増えるようである5)7)。幻覚の種類はBassionyら8)によれば幻視が4〜59%(中央値19%)、幻聴が1〜29%(中央値12%)、その他の幻覚が0.4〜8%(中央値4%)である。
 ADの妄想は初期〜中期にみられることが多い。最も多いのは物盗られ妄想で、その他には被害妄想、嫉妬妄想、心気妄想など不快でネガティヴな妄想が多く、誇大妄想や血統妄想はまれである8)。物盗られ妄想は女性に多くみられる。物盗られ妄想では従来言われているように嫁が対象になる場合も多いが、嫁や主介護者が対象となるのは約半数で、実際には夫、娘、近所の住人など様々な人が対象になる(表1)。家族構成・生活パターンによって対象が異なる傾向があることから、物盗られ妄想は環境要因に影響されることが推察される。
 妄想が比較的初期に多いのに対し、家族を他人と間違える、自分の家でないと言うなどの誤認は、妄想性誤認も含めてADでは中期以降に多くみられる。しかしまれに認知症が軽い時期から妻や夫を「知らない人」と言うなど人物誤認を生じるケースがあり、レビー小体型認知症(DLB)との鑑別を要することがある。

表1 女性AD患者114人における物盗られ妄想の対象と生活形態

生活形態
妄想対象 息子家族と夫 息子家族
(夫なし)
娘家族
(夫あり&なし)
独居
息子・娘 2 7 10 4
子の配偶者 2 20 3 3
10 0 0 0
近隣他人 1 5 3 4
不特定 5 10 2 3

【レビー小体型認知症】
 DLBでは初期から精神症状がみられる頻度が高く、当科のデータでは幻覚は約80%、誤認は約50%、妄想は約25%の患者でみられた2)9)。自検145例でみられた精神症状の内訳を表2に示す2)
 幻覚では人物の幻視が最も多い。小動物や虫の幻視、非生物の幻視もしばしばみられる。実体意識性は視野外に人の気配を感じる症状で、DLBでは人物幻視に近縁の症状と考えられるため幻覚の範疇に分類される9)。幻聴は幻視に比べて頻度は低く、単純な幻音、幻声が多い。体感幻覚はまれにみられるが、幻味、幻嗅、幻触は筆者らは経験がない。
 妄想はDLBでも物盗られ妄想や被害妄想が多い。小阪らはDLBでは嫉妬妄想の頻度が高く、幻視の人物を浮気相手と思って嫉妬するのであろうと推測している10)
 DLBでは初期から誤認がみられることも多く、幻視が明らかでなくてもDLBを疑う一助となる。各種誤認症状についての詳細は他稿を参照されたい2)

表2 DLBの精神症状の分類(145症例中)2)

【幻覚、および関連症状】80.7%
人物の幻視(97例、66.9%)
実体意識性(40例、27.6%)
動物・虫の幻視(44例、30.3%)
物体の幻視(35例、24.1%)
要素性幻視(10例、6.9%)
幻聴(9例、6.2%)
体感幻覚(3例、2.1%)
【誤認、および関連症状】51.0%
人物の誤認(26例、17.9%)
幻の同居人(14例、9.7%)
Capgras症状(6例、4.1%)
場所の重複記憶錯誤(6例、4.1%)
人物の重複記憶錯誤(12例、8.3%)
いない身内が家に居る(7例、4.8%)
亡くなった身内が生きている(7例、4.8%)
物体の誤認(35例、24.1%)
場所の誤認(19例、13.1%)
TV誤認(4例、2.8%)
その他の誤認関連症状(5例、変形視1.4%、その他2.1%)
【妄想、および関連症状】26.9%
盗害妄想(22例、15.2%)
迫害妄想(18例、12.4%)
心気的妄想(3例、2.1%)
嫉妬妄想(3例、2.1%)
妊娠妄想(1例、0.7%)

【血管性認知症】
 脳血管障害による幻覚は、局所症状として生じる場合と、脳機能の全般的低下(認知症、せん妄)に随伴して生じる場合がある。Ikedaらの中山町研究11)では血管性認知症の7.1%に幻覚が、14.3%に妄想がみられている。局所病変との関連では、後頭葉病変による幻視と、脳幹病変による幻覚(中脳幻覚症)がよく知られている。
 血管性認知症の妄想について詳細な検討はないようだが、ADと似ているとの報告がある11)12)。筆者らは軽度認知症にもかかわらず、強固に妻を他人と誤認するビンスワンガー病患者を経験している。

【前頭側頭葉変性症】
 前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)で幻覚がみられることはまれである4)13)。しかし認知症が進行すればFTLDでも幻覚は認めうる。妄想はFTLDでもみられることがあり、筆者ら13)は31.3%、Engelborghsら7)は17.2%の患者で妄想がみられたと報告している。

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