認知症いろいろ たしかめてください、患者さんの「認知機能」

認知症特集

本人視点からアリセプト®を再考する

ドネペジル(アリセプト®)は“興奮”させる薬剤か?

BPSDとしての「興奮」:左右する要因

 ここで「興奮」をBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)としてとらえなおしてみたい。BPSDは様々の原因によって引き起こされ修飾される。環境要因や状況因、ライフイベント、さらに身体疾患や様々の服用薬などによって影響を受ける。ライフイベントとは呼べないような些細な日常の出来事でさえも、認知症患者ではBPSDを引き起こすことがある。
 アリセプト®の服用中に「興奮」した自験例について経過を振り返ってみると、薬物療法による直接の「興奮」ではなく、治療による変化が周囲の反発を誘発し、結果として「興奮」に至ったと理解できた症例が少なからず存在した。例えば、不活発で無為だった患者が治療によって周囲への関心が高まると、不完全ながらも反応したり、行動を起こしたりする。しかし自分の意図を適切に説明できず、また周囲に配慮しながら行動することもできない。したがって家族の介護負担は増加することになる。そして介護の手が少なく介護の許容量が限られていれば、周囲はこうした変化を受け入れることは難しい。さらに患者と家族の情緒的関係が良好でない場合は、同様の変化でも周囲の受け止め方がますますマイナスに傾いてしまう(表2)。
 すなわち“改善”とは言っても、家族・介護者にとっては歓迎すべきものではないことがある。すると家族・介護者は、本人を注意し、制止し、たしなめ、場合によっては非難することもある。こうした周囲に患者は反応し、興奮が引き起こされることも少なくないと考えられた。

表2 アルツハイマー型認知症治療薬の効果と副作用の表裏の関係・左右する要因

効果と見る場合 副作用と見る場合
  • 意欲が向上した
  • 会話が増えた、言葉数が増えた
  • 自らの意思表示ができるようになった
  • 表情が豊かになった
  • 家事に協力しようとするようになった
  • 余計なことをするようになった
  • 口答えをするようになった
  • デイケアを拒否するようになった
  • 喜怒哀楽が激しくなった
  • 失敗が増えた、散らかすようになった
左右する要因
  • 病前の同居の有無(同居経験がない場合はこまやかな対応が困難)
  • 病前からの情緒的関係(元来関係の悪かった患者と家族の関係がさらに悪化)
  • 家族の介護負担の許容量(老老介護の場合などは、「改善」と理解できても対応しきれない)
  • その他
ドネペジルが患者を興奮させる薬剤か

 ドネペジルの“直接”の作用によって起こる興奮だけでなく、意欲低下やうつ状態、アパシー(無気力・無関心)などの症状が治療によって改善した結果、周囲の反発を誘発し、それに対する反応としての興奮があり得ることを述べた。しかし、薬剤の直接作用による興奮と周囲に対する反応としての興奮とを区別することは、家族や介護者の言動から多少の推測はできても、実際のところ難しい。
 ただ、ドネペジルはアルツハイマー型認知症治療薬の中でも、抑うつや感情鈍磨、無関心といったいわゆる“陰性症状”に対する効果が他剤よりも期待できる薬剤である3)。興奮や攻撃性を抑える方向に作用しやすい薬剤よりも、結果的に興奮に至る頻度は高いかもしれない。しかし、現在用いられている4つのアルツハイマー型認知症治療薬のいずれでも興奮が起こり得ることを筆者は経験している。
 実地医療において重要な点は、治療薬の作用プロフィールにとらわれず、治療による各患者の変化を家族と共有しながら、より望ましい治療薬に変更していくことであると考えられる。

文献
  1. 1)アリセプト®インタビューフォーム
  2. 2)Howard, R. J., et al. ; CALM-AD Trial Group : Donepezil for the treatment of agitation in Alzheimer's disease. N. Engl. J. Med., 357 (14), 1382-1392 (2007)
  3. 3)Gauthier, S., et al. ; Donepezil MSAD Study Investigators Group : Efficacy of donepezil on behavioral symptoms in patients with moderate to severe Alzheimer's disease. Int. Psychogeriatr., 14, 389-404 (2002)

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