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認知症特集

本人視点からアリセプト®を再考する アリセプト®の投与意義

MCIで抗認知症薬を投与すべきか?

神戸大学大学院医学研究科 神経内科学分野准教授 古和久朋

はじめに

 軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)とは、物忘れの訴えがあり、加齢に伴う記憶障害の範囲を超えた記憶障害が存在するものの、全般的な認知機能は正常に保たれ、したがって日常生活動作は保たれることから、認知症とは呼べない状態、とPetersenらにより提唱された概念である1)
 これらの条件を満たす例を経過観察していくと、年率にして10〜15%がアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)を発症したこと(コンバートと呼ぶ)から、認知症前段階として注目されてきた。
 本項ではこうしたMCIの患者に対して、ドネペジルをはじめとする抗認知症薬投与の是非を考えたい。臨床面の効果に関するエビデンスを参考に、各種抗認知症薬の神経細胞保護作用などに関する知見を紐解きながら、筆者の私見を述べたい。

MCIの脳内はどのような状態か?

 ADの診断および治療効果判定のために有用なバイオマーカー探索を目的として、現在世界同時並行で進められているADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)と呼ばれる観察研究によれば、すでにMCIの段階で脳内にはADと同程度のアミロイド蓄積があることが、生体内のアミロイド可視化を可能としたアミロイドPETや、アミロイドの主要構成蛋白であるAβ42の髄液中での変化などから結論づけられている2)。したがってMCIとADの臨床的差異は、おそらく神経細胞の機能がMCIではADに比べて相対的に保たれていることによるものと推測される。前述のADNIのデータによれば、シナプスの活動性を反映すると考えられているFDG-PETのデータがMCIではその低下の程度がADに比較し軽度であり、この推測を支持するものである。

MCIに対する抗認知症薬の臨床報告

 このような背景を考慮した上で、MCIに対して各種抗認知症薬の効果は期待できるのであろうか。以下、各種抗認知症薬についての報告を紹介したい。

(1)ドネペジル
 ドネペジルについては、3報のMCIへの有効性を検討した報告がある。
 Doodyらは、CDR0.5、MMSE24〜28点、WMS-Rの論理記憶に低下がなく認知症の定義を満たさないものをMCIとして定義し、821例のMCIを二重盲検でドネペジル群、プラセボ群にわけ48週間の観察を行った3)。その結果、ADAS-Cog.がドネペジル投与群で有意に改善していた。
 ほぼ同様のMCIの定義で検討したSallowayらの報告では、5〜10mgのドネペジルを投与し、24週間後の認知機能を評価した4)。その結果、ドネペジル投与群ではプラセボ群と比較してADAS-Cog.、WMS-Rの逆証、符号数字などが有意に改善していた。これら2つはコンバート率についての検討はなされなかった。
 一方、769例のMCIに対してドネペジルあるいはプラセボを投与しADへのコンバート率を評価したPetersenらの報告5)では、12〜24カ月後のADへのコンバート率がドネペジル投与群で有意に低下していた(コンバートするハザード比が、12カ月後で0.42、24カ月後で0.64)。

(2)ガランタミン
 ガランタミンについては、Winbladらが、50歳以上の男女でCDRが0.5、NYU Paragraph Recall Test10点以下で、認知機能の低下は認めるものの認知症の定義を満たさない2,048例を対象とした、大規模な二重盲検試験を実施した6)。その結果、24カ月の投与期間終了後に認知症へコンバートした比率は、ガランタミン投与群で22.9〜25.4%、プラセボ投与群で22.6〜31.2%と有意差を認めなかった。

(3)リバスチグミン
 リバスチグミンについても、InDDEx研究と銘打ったコンバート率の差を検討した研究がある7)。なお本邦で発売中の貼付剤ではなく、内服薬による検討であり、したがって投与量も3〜12mg/日である。その結果、計1,018例の4年間におよぶ追跡で、リバスチグミン投与群では17.3%、プラセボ群では21.4%のコンバート率であり、両者に有意差を認めなかった。

(4)US-ADNIによる観察研究
 一方、US-ADNIに参加した402例のMCI患者の観察期間内のコンバート率と抗認知症薬の使用の有無について検討した報告がある8)。MCIの177例(44%)がコリンエステラーゼ阻害薬(うちドネペジル内服例は150例、84.7%)、11.4%がメマンチンを内服していた。これらの薬物の内服群は、非内服群に比して、エントリー時点の各種認知機能バッテリーで機能が悪いことに加え、ADNIの観察期間中の認知機能の悪化スピードが、メマンチンの内服いかんにかかわらずコリンエステラーゼ阻害薬内服群で有意に速く、ADへのコンバート率も3年の経過観察中に42.6%(コリンエステラーゼ阻害薬単独治療群)、55.6%(メマンチン併用群)と非治療群の22.3%に比較して有意差をもって高かった。
 治験のように無作為割り当てを行った群間比較のデータとは異なりあくまで観察研究の解析であり、全米各地のADリサーチセンターでエキスパートにより診断され、MCIの段階でも抗認知症薬が処方された何らかの理由がある患者群であることから、この結果をそのまま判断材料とすることはできまい。ただ、少なくともMCIに各種抗認知症薬の介入を積極的に行うことを支持しないデータとは言えるだろう。

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